風が運んだ灯火(ともしび)
いつの間にか、庭の隅に小さな赤い灯火がともっていた。
どこからか風に吹かれて飛んできた種が、いつの間にか土に根を下ろし、誰に気づかれることもなく
花を咲かせたのだ。
何となく惹かれるその花がノケイトウだと知ったのは、 後で調べてからのことだった。
ノケイトウはケイトウの仲間だが、あまり日が当たらない、他の植物があまり生えない
「過酷な場所」を好んで咲く。
園芸店できちんと並んでいる花たちとは違い、我が家を選んでやってきたのだと思うと、
急に愛おしさが湧いてくる。
「調べてみれば、ノケイトウはトサカのように豪華なケイトウの『祖先』なのだという。
品種改良された華やかなケイトウより、ノケイトウの野生の力強さとスマートさに私は惹かれる。
通常、ノケイトウはコンクリートの隙間や、手入れの届かない雑草の間に、ひっそりと、
しかし力強く立つ。
それは、思い通りにいかない毎日のなかでも、
与えられた場所で精一杯に生きる人間の姿にも似ている。
風に運ばれるまま、流れ着いた場所で根を張る、 そのしなやかで強い生き方に、
私は静かな勇気をもらった気がした。
きっと、どこからか風に吹かれて、この高いバルコニーまで飛んできた一粒の種だったのだろう。
流れ着いた場所で「さあ、ここでどう咲こうか」
と楽しむしなやかさを持っていた。
バルコニーの特等席で、風に揺れる小さなピンクの灯火を見つめながら、
私は静かな勇気をもらっている。

小さな暮らしの案内人
