あの日、ローズマリーに魅せられて
朝晩の風がにわかに涼しくなり、日が暮れるのも早くなってきた。
季節の変わり目は本当にあっという間だ。
こうして、日本の四季はまた、めぐる速度を速めていく。
我が家のベランダでは、ローズマリーの古株がたくさんの花を咲かせ始めている。
毎朝起きると、まずハーブたちのご機嫌を伺うのが私の日課だ。
見るたびに花の数が増えているのが、とてもうれしい。
水遣りをすると、それに答えるようにあの良い香りがふわりと漂い、なんとも言えない幸せな気持ちに包まれる。
夏バテしていたハーブたちも、初秋の風に揺られて、どこかうれしそうだ。
植物も長く育てていると、その土地の気候や環境に馴染んでくる。
我が家のベランダは少し不思議な空間で、12月になってもトマトが実をつけ、ハイビスカスが花を咲かせ、ゼラニウムもそのまま冬を越す。
しかし、さすがに今年のあの凄まじい酷暑は過酷だった。
耐えきれずに枯れてしまったものがいくつかあったのは、本当に残念でならない。
我が家には4種類のローズマリーがある。
種類によって葉や花の大きさ、色、香りはそれぞれ異なる。
どれも愛おしい古株たちだが、今年の暑さには少々参ってしまったようで、うどん粉病やカイガラムシが発生してしまった。
だから今、私はローズゼラニウムに続いて、ローズマリーとラベンダーデンタータの挿し木を行っている。
気温が下がり始めたこれからの季節は、植え替えや挿し木など、秋の庭仕事が本格的に始まる季節でもある。

私がこれほどまでにローズマリーを好きになったのは、かつて暮らしたロンドンのリージェンツ・パークでの出会いがあったからだ。
リージェンツ・パークの広さは約166ヘクタール、東京ディズニーランドの約3.2倍の大きさにあたる。
その巨大なパークには、イングリッシュ・ガーデンやボーダーガーデンがあり、無数の植物が息づいていた。
特にロンドン市内最大規模を誇るバラ園「クイーン・メアリーズ・ローズ・ガーデン」では、5月から6月にかけて約12,000株ものバラが咲き乱れる。
イングリッシュローズやオールドローズのむせかえるような香りに包まれながら、私は毎日このパークを通り抜けてカレッジに通っていた。

四季を通して植物の移り変わりや香りに触れられたあの小道は、私にとって最高の贅沢であり、
とても幸せな時間だった。
“そのパークの中で、私は出会ったのだ。”
まるで緑の小山のように見事に仕立てられた、たくさんのローズマリーのトピアリーに。
高さは1メートル以上もあり、両手ではとても抱きかかえることができない。
「遠くから見ると、大きなまあるい木にしか見えないこれは何だろう?」
それが、私とローズマリーの初めての出会いだった。
風に乗って広がる、あの独特の爽やかで力強い香りに、私は一瞬にして魅せられてしまった。
それからはパークに出かけるたび、その大きなローズマリーに抱きついては、そっと目を閉じた。
そうして気持ちをリフレッシュさせるのが、いつしかお決まりの儀式になっていた。
ローズマリーの香りの中で目を閉じると、不思議と、私の中のずっと深いところにある「太古の記憶」にまでたどり着けるような気がするのだ。
あのロンドンの緑の小山から、現在の小さなベランダへ。
時を超えて、私の傍らにはいつもこの香りが寄り添ってくれている。
我が家のローズマリーたち。
どうかこの厳しい夏を乗り越えた古株が枯れてしまわないようにと祈りながら、今、私は植え替えを進めている。
それと同時に、命をつなぎ、若返らせるための挿し木も。
小さな一枝をそっと土に挿し、手を合わせる。
お願い、どうか。
あの力強い青い香りの記憶のままに、この小さな茎から、新しい根が出てきますように。

小さな暮らしの案内人
