アップルゼラニウムの
香りに誘われて
日本の猛暑のなか、花を休めてハート型の可愛い葉を生き生きと茂らせるアップルゼラニウムの生命力。
触れると広がる、甘く涼やかなリンゴの香り。
その柔らかな葉にそっと指先で触れた瞬間、甘酸っぱい青林檎の香りがふわりと立ち上り、
ガーデンがリンゴ畑になったかのように爽やかな香りに包まれる。
それはまるで、私の五感を一瞬で遠いイギリスの庭へと連れ去る秘密のスイッチのようだ。
この香りは、かつて住んでいたイギリスの庭の記憶へとつながる。
かつて英国の日常にあった、香るハーブを束ねた「ハーバルブーケ(タッジーマージ―)」。
そこには必ず、このアップルゼラニウムが選ばれていた。
なぜ必ずといいほど入っていたのか。
実はこの葉に託されたヴィクトリア朝の花言葉は「真の友情」や「信頼」。
言葉にできない大切な想いを、人々はこの丸い葉の香りに託して贈っていたのだと知る。
ヴィクトリア朝時代には、貴婦人たちがドレスの裾で葉を擦り合わせて甘い香りを楽しむなど、
イングリッシュガーデンの小道沿いや、窓辺を彩るハンギングバスケットなどに好んで植えられてきた。
今、日本の夏の庭でこの葉に触れるとき、私もまた、時空を超えて英国の暮らしの知恵や、
人々の優しい想いと「信頼」で結ばれているような心地よさに包まれる。
まもなく訪れる秋には、白い小さな可愛い花が一斉に咲乱れる。
またその時も待ち遠しい。

小さな暮らしの案内人
